なぜ年金制度は変わるのか?
年金制度は、少子高齢化の進展、多様な働き方の普及、経済社会情勢の変化に対応するため、継続的に見直しが行われています。今回の改正は、国民の老後生活の安定、所得再分配機能の強化、そしてiDeCoや企業型DCといった私的年金制度の拡充を目的としています。複数の改正が異なる時期に施行されるため、このガイドで重要な変更点とスケジュールを確認しましょう。
主要改正の施行タイムライン
2024年12月1日
iDeCo拠出限度額の見直し、事業主証明書の原則廃止などが施行。DB等加入者のiDeCo上限が月2万円に引き上げられます。
2026年4月1日
2025年6月成立の改正法の基本的な施行日。在職老齢年金の支給停止基準額が月62万円に引き上げられます。
2027年10月1日~
短時間労働者への被用者保険の適用が、企業規模要件の段階的撤廃によりさらに拡大していきます。
2028年4月1日
遺族年金制度の見直し(男女差の解消など)が施行されます。
公布から3~5年以内
iDeCoの加入可能年齢の70歳未満への引き上げや、企業型DCの拠出限度額の月6.2万円への拡充などが順次施行される予定です。
改正の全体像:2つの主要な改正
今回の年金制度改革は、大きく分けて2つの法律・政令に基づいています。1つは2025年6月に成立した広範な年金制度改正法、もう1つはそれに先行して2024年12月に施行されたiDeCo関連の改正です。それぞれの主な内容を比較して見てみましょう。
令和7年(2025年)6月成立の年金制度改正法
- 被用者保険の適用拡大:短時間労働者が厚生年金に加入しやすくなる。
- 在職老齢年金の見直し:働きながら年金をもらう際の収入基準が緩和。
- 遺族年金の見直し:男女差の解消など、より現代の家族像に合わせた制度へ。
- iDeCo加入年齢の引き上げ:加入できる年齢が65歳未満から70歳未満へ。
- 企業型DC拠出限度額の拡充:限度額が月5.5万円から月6.2万円へ。
- 離婚時年金分割:請求期限が2年から5年へ延長。
令和6年(2024年)12月1日施行のiDeCo関連改正
- iDeCo拠出限度額の見直し:DB等に加入している会社員・公務員のiDeCo上限が月1.2万円から月2万円にアップ。
- 事業主証明書の廃止:iDeCo加入時の手続きが大幅に簡素化。
- 企業の新たな義務:DB等を運営する企業は、従業員の掛金情報を「企業年金プラットフォーム」へ毎月登録する必要がある。
あなたの立場に合わせた影響
あなたの状況に最も近いものを選択してください。関連する改正内容が表示されます。
企業型DC加入者への影響
企業型DCの拠出限度額が月5.5万円から月6.2万円に引き上げられる予定です(公布から3年以内施行)。より多くの資産形成を目指せるようになります。また、DB等の他制度に併用加入している場合、拠出限度額の計算方法が実態に合わせて変更されます。
DB加入者への影響
DB(確定給付企業年金)等の他制度に加入している方のiDeCoの拠出限度額が、2024年12月1日から月額12,000円から20,000円に引き上げられます。これにより、DBとiDeCoを併用した、より柔軟な老後資金計画が可能になります。
公務員への影響
公務員の方も、DB等加入者と同様にiDeCoの拠出限度額が2024年12月1日から月額12,000円から20,000円に引き上げられます。また、iDeCo加入時の事業主証明書が原則不要となり、手続きが簡単になります。
短時間労働者への影響
被用者保険(厚生年金・健康保険)の適用が拡大されます。賃金要件の撤廃(公布から3年以内)や企業規模要件の段階的撤廃(2027年10月〜)により、より多くの方が厚生年金に加入でき、将来の年金受給額が増加する可能性があります。
在職老齢年金制度の見直し(全高齢就労者関連)
65歳以上で働きながら年金を受け取る方のうち、給与と年金の合計額が多い場合に年金が一部停止される「在職老齢年金制度」。この支給停止基準額が段階的に引き上げられ、より働きやすくなります。
企業が対応すべき事項
今回の年金制度改正に伴い、企業の人事・労務担当者には多岐にわたる対応が求められます。特に重要な項目をチェックリストにまとめました。
規約変更の検討
企業型DCやDBの規約について、改正内容に合わせた変更が必要か確認します。特に、2024年12月以降の拠出限度額に関する経過措置を適用するかどうかは重要な判断事項です。
情報登録と連携
DBを実施する企業は、2024年12月から「企業年金プラットフォーム」へ毎月、従業員の掛金情報を登録する義務が生じます。受託機関と連携し、正確かつタイムリーな情報登録体制を構築する必要があります。
従業員への周知と説明
iDeCoや企業型DCの限度額変更、被用者保険の適用拡大など、従業員に直接影響する内容について、分かりやすく情報提供を行うことが重要です。特に拠出限度額の計算が複雑になる従業員への丁寧な説明が求められます。
人事・給与システムの改修
短時間労働者の適用拡大や在職老齢年金制度の見直しに伴い、社会保険料の計算ロジックや給与計算システムの改修が必要になる可能性があります。事前にシステムベンダー等と確認を進めましょう。