先日、会社のキックオフミーティングでAI研修の講義をしました。
AIの基本的な使い方を説明するだけでは、聞いている人も退屈するだろう。そう考えて、できるだけ自分が現場で経験したことを話すようにしました。
AIを使ってGoogle Apps Scriptのコードを書いたこと。Excelやスプレッドシートの作業を効率化したこと。自然な言葉でAIに指示しながら、自分で使うアプリを作ったこと。
きれいに整理された一般論よりも、実際に仕事で使った話の方がリアルです。どこでうまくいかなかったのか、AIがどんな間違いをしたのか、それをどう修正したのか。そういう話の方が役に立つと思っていました。
もちろん、僕なりに内容のレベルは下げたつもりです。
ところが、研修が終わってみると、それでも少し難しかったようでした。
僕の中では「かなり簡単にした」という感覚でした。しかし、聞く側からすると、すでに何段階か先の話になっていたのかもしれません。
ここで改めて気づいたことがあります。
AIが身近になったことと、AIを日常的に使えることは、同じではないということです。
仕事では使う。でも、プライベートでは使わない
研修後、何人かに普段のAIの使い方を聞いてみました。
仕事ではAIを使っている。ただ、プライベートでは検索の代わりに質問する程度だという人が多かったです。
文章を作る。分からないことを調べる。メールを少し整える。
そのあたりまでは使っていても、自分の生活や趣味の中にAIを入れるところまではいっていない。
AIは仕事で必要だから使うもの。
会社が用意したから使うもの。
検索より少し便利なもの。
まだ、そのような位置づけなのかもしれません。
これは少し意外でした。
受講者は30代が中心です。僕は60代です。
年齢だけを考えれば、30代の人たちの方が新しいサービスに慣れていて、AIも日常的に使っているのではないかと思っていました。
でも、現実はそう単純ではありませんでした。
僕が同級生と話しても、AIについてある程度話が通じるのは2人くらいです。ほとんどの人にとっては、まだ縁のない世界です。
一方で、30代だからといって、全員が積極的にAIを使っているわけでもありません。
考えてみれば当然なのかもしれません。
スマートフォンを毎日使っているからといって、スマートフォンで新しい仕組みを作るわけではありません。パソコンを使って仕事をしているからといって、業務を自動化しようと考える人ばかりでもありません。
道具が身近にあることと、その道具で何ができるかを想像できることは別です。
AIも同じなのだと思います。
Xを見ていると、みんな使っているように見える
僕は普段、XなどでAIに関する投稿をよく見ています。
AIでアプリを作った。
新しいモデルを試した。
仕事を自動化した。
画像や動画を生成した。
そうした投稿が毎日のように流れてきます。
それを見ていると、世の中の多くの人がAIを使いこなしているような気になります。
しかし、実際には、投稿するほどAIを使っている人は少数なのかもしれません。
AIに興味のある人がAIについて投稿し、それをAIに興味のある人が見ています。その中にいると、それが世の中の標準に見えてしまう。
けれど、一歩外に出れば、AIはまだ「たまに質問するもの」です。
この差は、思っている以上に大きいのだと思います。
「どうしたら普段からAIを使うようになりますか?」
研修の中で、受講者からこんな質問を受けました。
「どうしたら普段からAIを使うようになるのですか?」
とても本質的な質問だと思いました。
AIの使い方を説明することはできます。
プロンプトの書き方や、便利な機能を紹介することもできます。
しかし、それを聞いたからといって、翌日からAIを使うようになるとは限りません。
パソコンを開くたびにAIを起動しなさい。
毎日必ず3回質問しなさい。
そう決めても、おそらく長くは続きません。
使う理由がないからです。
そこで僕は、「AI×趣味」だと思うと答えました。
その人の趣味を聞いて、そこにAIをつなげてみる。
料理が好きなら、冷蔵庫にある材料から献立を考えてもらう。
旅行が好きなら、自分の好みに合わせた旅程を一緒に作る。
ゴルフが好きなら、自分のミスの傾向やクラブ選びを整理する。
競馬が好きなら、過去データの見方を考えたり、自分専用の分析ツールを作ったりする。
写真が好きなら、構図や編集方法を相談する。
ゲームが好きなら、攻略法だけでなく、自分なりの遊び方や記録方法を考えてもらう。
最初から仕事の難しい課題に使う必要はありません。
むしろ、好きなことに使った方がいい。
なぜなら、趣味なら何度でも試せるからです。
好きなことなら、AIとのやり取りが続く
仕事でAIを使う場合、どうしても正解を求めます。
一度で正確な答えが欲しい。
間違っていたら困る。
確認する時間がない。
そうなると、少し期待した答えと違うだけで「AIは使えない」と感じやすくなります。
趣味では、そこまで厳密ではありません。
少し違えば、もう一度聞けばいい。
自分の好みを伝え直してもいい。
「そうじゃなくて、もう少しこうして」と気軽に修正できます。
このやり取りを繰り返しているうちに、AIへの伝え方が少しずつ分かってきます。
何を先に説明すればいいのか。
どこまで条件を伝えればいいのか。
一度で完成させようとせず、どう分けて頼めばいいのか。
AIの答えをどこまで信じて、どこを自分で確認すべきなのか。
プロンプトの講義を受けるよりも、好きなことについてAIと何度も話した方が、結果として使い方を覚えます。
僕自身もそうでした。
競馬のデータを分析したい。
ブログの記事を書きたい。
ゴルフクラブの違いを整理したい。
自分で使うアプリを作りたい。
最初からAIを勉強しようと思っていたわけではありません。
自分がやりたいことが先にあって、それを実現するためにAIを使っていただけです。
そして、使っているうちに、少しずつできることが増えていきました。
AIを使う力は、知識より回数で身につく
AIを使えるようになるために、難しい専門知識が必要だと思われがちです。
もちろん、仕組みを知ることは大切です。
ただ、日常で使うために必要なのは、専門用語よりもAIとやり取りした回数ではないかと思います。
質問してみる。
思った答えと違う。
条件を足す。
もう一度やってみる。
出てきたものを比べる。
自分の考えを伝え直す。
この繰り返しが、AIを使う感覚を作ります。
だからこそ、最初は楽しいことでいい。
役に立つかどうかさえ、あまり考えなくてもいい。
猫の写真から物語を作る。
昔好きだった音楽について話す。
週末のランニングコースを考える。
自分の趣味を初心者に説明する文章を作ってもらう。
そんな使い方でも、AIとの距離は確実に縮まります。
趣味で覚えた使い方は、やがて仕事に戻ってくる
趣味でAIを使うことは、遊びで終わるわけではありません。
趣味の中で身につけた質問の仕方や修正の仕方は、そのまま仕事でも使えます。
目的を伝える。
必要な条件を整理する。
一度に全部を任せず、作業を分ける。
出力を確認する。
間違いを指摘して修正させる。
これは仕事でAIを使うときにも必要なことです。
最初から業務効率化やアプリ開発を目指すと、ハードルが高く見えます。
しかし、趣味の中でAIとの会話に慣れた人なら、「これもAIに相談できるかもしれない」と考えられるようになります。
この「AIに相談できるかもしれない」という発想が、いちばん重要なのだと思います。
AIを使わない人は、能力がないわけでも、勉強が足りないわけでもありません。
単に、自分の生活とAIがまだつながっていないだけです。
AIの入口は、仕事でなくてもいい
今回の研修を通じて、僕自身も少し考え方が変わりました。
現場の経験を話すことは大切です。
ただ、その経験が受講者の現在地から離れすぎていると、リアルな事例であっても「自分にはできない話」に見えてしまいます。
こちらがレベルを下げたつもりでも、相手にとってはまだ高いことがあります。
その間を埋めるには、機能の説明を増やすだけでは足りません。
まず、その人が何を好きなのかを聞く。
何に時間を使っているのかを聞く。
そこから、AIとつながる小さな入口を一緒に考える。
AIを普段から使うために必要なのは、「AIを使わなければならない」という意識ではありません。
「これ、AIと一緒にやったら面白いかもしれない」
その感覚だと思います。
仕事に役立てるのは、その後でも遅くありません。
楽しいこと、好きなことにAIを絡ませる。
まずは、そこからでいいのではないでしょうか。

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