60歳を過ぎて考える「働ける社会」と「働かざるを得ない社会」

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僕も60歳を過ぎたので、高齢者の雇用は他人事ではありません。

高齢になっても、働く意欲と体力がある人が仕事を続けられる。収入だけでなく、人とのつながりや生きがいにもなり、これまでの経験を次の世代へ渡すこともできる。そうした社会は望ましいと思います。

一方で、「働きたい人が働ける社会」と「生活のために働き続けなければならない社会」は、同じではありません。

高齢者の就業率は上がり、企業には70歳までの就業機会を確保する努力義務もあります。ただ、制度や数字を見ていくと、単純に「元気なうちは働けばいい」とは言い切れない部分も見えてきます。

高齢者の就業率はここまで上がっている

総務省の労働力調査によると、2025年平均の就業率は次のようになっています。

60~64歳 74.9% ███████████████
65~69歳 54.5% ███████████
70~74歳 36.2% ███████
75歳以上 12.6% ███

※棒1個はおよそ5ポイント。総務省「労働力調査(基本集計)2025年平均」より作成。

年齢 就業率
60~64歳 74.9%
65~69歳 54.5%
70~74歳 36.2%
75歳以上 12.6%

60代前半では4人に3人ほど、60代後半でも半数を超える人が働いています。70代前半でも3人に1人を超えています。

かつて一般的だった「60歳で定年、その後は年金生活」という姿は、もう標準ではなくなりつつあります。

ただし、この数字だけでは、本人が働きたくて働いているのか、生活のために働かざるを得ないのかまでは分かりません。

70歳まで働ける制度と、70歳定年は違う

高年齢者雇用安定法では、企業に65歳までの雇用確保措置が義務付けられています。さらに、70歳までの就業機会を確保することは努力義務です。

ここで注意したいのは、「70歳までの就業確保」が「定年を70歳へ延ばすこと」と同じではないことです。

企業が選べる措置には、定年の引き上げや継続雇用制度だけでなく、業務委託契約を結ぶ制度、社会貢献事業に従事できる制度なども含まれます。

厚生労働省が2025年6月時点で集計したところ、65歳までの雇用確保措置を実施済みの企業は99.9%でした。一方、70歳までの就業確保措置を実施済みの企業は34.8%です。

65歳までの雇用確保 99.9% ████████████████████
70歳までの就業確保 34.8% ███████

※従業員21人以上の企業23万7,739社が対象。棒1個はおよそ5ポイント。

企業規模別では、中小企業が35.2%、大企業が29.5%でした。

企業区分 70歳までの就業確保措置を実施済み
全体 34.8%
中小企業 35.2%
大企業 29.5%

70歳まで働く道は広がっていますが、まだすべての企業で整っているわけではありません。また、継続雇用と業務委託では、働く人を守る仕組みも違います。「70歳まで働ける」という言葉だけでなく、雇用契約なのか、賃金や勤務時間はどうなるのかまで見る必要があります。

働く理由の半数以上は「収入」

内閣府の「令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査」では、仕事をしている60歳以上の人に主な理由を一つ尋ねたところ、「収入がほしいから」が55.1%でした。

収入がほしいから 55.1% ███████████
その他の理由合計 44.9% █████████

※「その他の理由合計」は、収入以外の回答をまとめたものです。

働くことが健康や生きがいにつながる人はいるでしょう。社会との接点ができ、生活にリズムが生まれることもあります。

しかし、調査では主な理由として収入を挙げる人が半数を超えています。「高齢者が働いている」という同じ姿でも、好きな仕事を続けている人と、年金だけでは足りず働いている人では事情が違います。

健康に良いかどうかも、仕事の内容や勤務時間、人間関係、本人の体調によります。無理なく働ける仕事ならプラスでも、体に負担の大きい仕事を生活のために続ければ、同じようには考えられません。

高齢者雇用は非正規が多い

総務省が2026年9月に公表した2025年の統計では、65歳以上の役員を除く雇用者のうち、非正規の職員・従業員は76.1%でした。

非正規 76.1% ███████████████
正規等 23.9% █████

短時間勤務を希望して非正規を選ぶ人もいるため、非正規だから悪いとは限りません。体力や介護、通院に合わせて働くには、柔軟な勤務の方が合う人もいます。

一方で、賃金や雇用の安定、社会保険、仕事上の責任との釣り合いは確認が必要です。高齢者向けの仕事を増やすだけでなく、仕事の質をどう確保するかが重要になります。

企業や社会にとっての利点

高齢者が働き続けられることは、本人だけの話ではありません。

  • 人手不足を補える
  • 経験や技術を若い世代へ引き継げる
  • 税や社会保険料を負担する人が増える
  • 収入が増え、消費にもつながる
  • 社会とのつながりを保ちやすい

高齢者雇用を進める企業には、定年の引き上げなどに応じて支給される「65歳超雇用推進助成金」もあります。2026年度の継続雇用促進コースでは、制度の内容や対象人数に応じて15万円から240万円です。

また、全国の主要なハローワーク300か所には「生涯現役支援窓口」が設置されています。2025年度のチーム支援による就職率は、60~64歳で93.5%、65歳以上で92.7%とされています。

ただし、この就職率は窓口を訪れた人全体ではなく、「チーム支援を受けた求職者」に対する実績です。数字だけを見て「相談すれば93%の人が必ず就職できる」と受け取らない方がよいでしょう。

若い世代と仕事を奪い合うのか

高齢者が働くと若い人の仕事が減る、という見方もあります。しかし、仕事は固定された椅子を世代で奪い合うだけではありません。

人手不足の職場では、高齢者が働くことで事業を続けられる場合があります。経験を伝え、若い人を育てる役割もあります。

その一方で、同じ職場の管理職ポストや昇進機会など、限られた場所では世代間の調整が必要になるでしょう。高齢者雇用を進めるなら、若い世代や就職氷河期世代の正社員化、賃上げ、職業訓練も同時に進めなければ、世代間の不公平感が強くなります。

年金問題を「働けばよい」で終わらせない

高齢者が長く働けば、本人の収入は増えます。税や社会保険料を納める人が増えるため、社会保障を支える側面もあります。

しかし、それだけで年金や医療、介護の問題が解決するわけではありません。年金の実質的な購買力が下がり、生活のために70歳まで働くことが当たり前になれば、「働ける社会」が「働かざるを得ない社会」へ変わってしまいます。

また、病気や障害、家族の介護などで働けない人もいます。高齢者雇用を進める一方で、働けない人が安心して暮らせる年金、医療、介護の仕組みも必要です。

僕が大切だと思うのは、選べること

60歳を過ぎた僕にとって、高齢者が働き続ける話は、遠い将来の話ではありません。

働くことで収入を得られ、人とのつながりも保てる。自分の経験を使える仕事があり、体力に合わせて勤務時間を選べるなら、長く働くことには魅力があります。

ただ、働きたくても仕事がないことと、働きたくなくても生活のために働かなければならないことは、どちらも避けたい。

必要なのは「何歳まで働くべきか」を一律に決めることではなく、働き方を選べることだと思います。

  • フルタイムか短時間勤務かを選べる
  • 現場仕事だけでなく、経験を伝える役割も選べる
  • 学び直して新しい仕事へ移れる
  • 体調が悪くなったら無理なく辞められる
  • 働かなくても最低限の生活を守れる

AIや自動化が広がれば、体力を使わずにできる仕事や、これまでの経験を生かす仕事も増えるかもしれません。ただし、デジタル機器を使える人だけが選択肢を得るのでは困ります。学び直しの機会や、仕事を始めてからの支援も必要です。

「生涯現役」という言葉は明るく聞こえます。けれども、本当に大切なのは、生涯働き続けることではありません。

働きたい人は働ける。そして、働けない人や働かないことを選んだ人も生活できる。

僕は、そこまでそろって初めて、年齢を重ねても安心できる社会になるのだと思います。

参考にした公的資料

※この記事は2026年10月28日時点で確認できた公的資料をもとにした個人的な整理です。制度の適用や助成金の要件は、勤務先や契約内容によって異なります。

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