櫻井心那、涙の復活V!CAT Ladies 2025を制した優勝クラブセッティングのすべて

Golf

2年間の沈黙を破った涙の完全優勝

2025年8月24日、神奈川県・大箱根カントリークラブ。夏の終わりの強い日差しが照りつける中、JLPGAツアー「CAT Ladies 2025」は劇的なフィナーレを迎えた。最終18番ホール、約30センチのウィニングパットを沈めた櫻井心那(21)は、両手の拳を天に突き上げた。その直後、彼女の両目からは熱いものがこみ上げてきた。。その涙は、単なる勝利の喜びだけではなかった。2023年の「富士通レディース」以来、実に約2年ぶりとなるツアー通算5勝目。それは、長く苦しいトンネルを抜けた末に掴んだ、あまりにも価値ある「完全優勝」だった。

2023年、10代で年間4勝を挙げるという、宮里藍、畑岡奈紗に次ぐ史上3人目の快挙を成し遂げ、「ダイヤモンド世代」の旗手として一躍トップシーンに躍り出た櫻井。誰もが更なる飛躍を期待した2024年シーズンは、まさかの未勝利に終わった。「3戦目でスイングがおかしくなり、迷路にはまりました」と本人が語るように、深刻な不振に陥っていたのだ。持ち球をフェードからドローに変える試み、得意だったはずのパッティングの不調、長尺パターへの挑戦――。もがき苦しんだ日々は、彼女に深い思索を促した。という言葉が、その苦悩の深さを物語っている。

最終日は、一時は6人が通算8アンダーで首位に並ぶという、JLPGAツアー史上稀に見る大混戦模様を呈した。そのプレッシャーの中で初日からの首位を守り抜き、最後は自らのバーディで激闘に終止符を打った。この復活劇の裏には、一体何があったのか。秋口から師事する目澤秀憲コーチとのスイング改造、今大会限定でタッグを組んだ吉田弓美子キャディとの精神的な相乗効果、そして何よりも、彼女自身が悩み抜いた末にたどり着いた「14本の武器」の存在があった。本稿では、2年間の沈黙を破り、櫻井心那を再び頂点へと導いた優勝クラブセッティングを、データと証言に基づき徹底的に解剖していく。

櫻井心那 CAT Ladies 2025 優勝ギア全14本+ボール徹底解説

2025年シーズンからクラブ契約フリーとなり、自らの感覚と性能を信じてクラブを選び抜いた櫻井心那。その決断が、今回の復活優勝という最高の結果に結びついた。ウッド系は大胆に一新し、アイアンは長年の信頼を継続、そしてパターには意外な「掘り出し物」を投入。そこには、彼女の明確な戦略とこだわりが凝縮されている。ここでは、彼女を支えた14本とボールの詳細を一覧で確認し、各クラブの選択理由を深掘りしていく。

優勝クラブセッティング一覧

まずは、CAT Ladies 2025を制した櫻井心那のクラブセッティングの全貌を一覧表で確認しよう。各クラブのモデル名、ロフト角、シャフトに至るまで、詳細なスペックは以下の通りである。この一覧を見るだけでも、新旧、そして複数メーカーのクラブを組み合わせた、契約フリー選手ならではの戦略的な構成が見て取れる。

クラブ種別 メーカー・モデル名 スペック詳細 シャフト / グリップ
ドライバー Titleist GT2 9度 Mitsubishi Chemical Diamana GT 60 (S) / Iomic
フェアウェイウッド Titleist GT2 3番(15度), 7番(21度) Mitsubishi Chemical TENSEI Pro White 1K 60 (S) / Iomic
ユーティリティ TaylorMade Qi35 MAX 4番(23度) Mitsubishi Chemical TENSEI Pro 1K HY 80 (S) / Iomic
アイアン Srixon ZXi5 (5番)
Srixon ZXi7 (6番-PW)
N.S.PRO 950GH neo (S) / Iomic
ウェッジ Titleist VOKEY SM10
Titleist VOKEY WedgeWorks
48度(10F), 52度(12F)
58度
N.S.PRO 950GH neo (S) / Iomic
パター PING ANSER 4 (2011年モデル) – (純正)
ボール Srixon Z-STAR DIAMOND

出典: Golf Digest Online, ALBA.Net の情報を基に作成。

ウッド系(1W, FW, UT):契約フリーで掴んだ「最適解」

ドライバー:Titleist GT2 (9度)

2025年、櫻井のバッグの中で最も大きな変化は、ドライバーとフェアウェイウッドにあった。長年慣れ親しんだスリクソンから、タイトリストの最新モデル『GT2』へとスイッチしたのだ。この決断の背景には、契約フリーという立場になったことが大きく影響している。と本人は語るが、2024年の不振を乗り越えるため、あらゆる可能性を模索した結果であることは想像に難くない。「オフにフィッティングさせてもらって、そこから自分が上に行けそうな、勝てそうなクラブを選んでいった感じです」という言葉通り、純粋な性能追求の末にたどり着いたのが、このGT2だった。

GT2ドライバーは、タイトリストが「圧倒的なスピードとやさしさ」を謳うモデル。櫻井の最大の武器である平均250ヤードを超える飛距離をさらに伸ばしつつ、安定性を高める狙いがあったと考えられる。シャフトには三菱ケミカルの『Diamana GT』を選択。先端の剛性を高めながらも、手元側のしなりを感じやすく、スイング中のヘッド挙動を安定させる特性を持つ。これにより、彼女のパワフルなスイングをロスなくボールに伝え、飛距離と方向性の両立を図っている。この新しい相棒が、初日から首位を譲らない完全優勝の原動力となったことは間違いない。

フェアウェイウッド & ユーティリティ:戦略の幅を広げる選択

フェアウェイウッドもドライバーと同様にタイトリストの『GT2』(3番15度、7番21度)で統一。ドライバーとの振り心地や打感の連続性を持たせることで、セッティング全体の完成度を高めている。特に注目すべきは7番ウッド(21度)の存在だ。これは、長いパー4のセカンドショットや、パー5で確実にグリーンを狙うための戦略的なクラブと言える。シャフトには『TENSEI Pro White 1K』を装着。手元側に重量感を持たせ、トップでの切り返しを安定させつつ、先端の剛性でインパクト時のヘッドのブレを抑制する、いわゆる「元調子」系のシャフトだ。これにより、パワーを込めて振りにいっても左へのミスを恐れずに、力強い弾道でグリーンをキャリーで狙うことが可能になる。

一方、ユーティリティにはテーラーメイドの『Qi35 MAX』(4番23度)を選択。ウッド系をタイトリストで揃える中で、あえてこの一本を挿している点に、契約フリーならではのこだわりが見える。Qi35 MAXは、高い寛容性と高弾道を特徴とするモデル。アイアンよりもやさしくボールを上げ、グリーン上でスピンで止めることができる。7番ウッドと5番アイアンの間の距離を埋めるだけでなく、ラフからのショットや傾斜地など、難しいライからでも安定した結果を求められる場面で、このクラブが彼女の強力な武器となる。メーカーの垣根を越え、各番手に求められる役割を冷静に分析し、最適な一本を選び抜く。その姿勢こそが、現代のトッププロに求められるギア戦略の神髄である。

アイアン・ウェッジ:「信頼」と「革新」の融合

アイアン:Srixon ZXi5 (5番), ZXi7 (6番-PW)

ウッド系を大胆に入れ替えた一方で、アイアンはアマチュア時代から長年愛用してきたスリクソンを継続使用した。これは、彼女のスリクソンアイアンに対する絶対的な信頼の証左である。契約フリーになっても、アイアンは全て住友ゴム工業(ダンロップ)の製品で固めている。この選択は、スコアメイクの根幹をなすアイアンショットにおいて、慣れ親しんだ打感や操作性、距離感のイメージを最優先した結果だろう。

セッティングは、5番アイアンにやや寛容性の高い『ZXi5』を、6番からPWにはより操作性を重視した『ZXi7』を入れるコンボ構成。ロングアイアンでは球の上がりやすさとミスへの強さを求め、ミドル・ショートアイアンではピンをデッドに狙うための精度とスピン性能を追求する、非常に実践的な組み合わせだ。シャフトは、ウェッジまで含めて日本シャフトの『N.S.PRO 950GH neo』で統一。軽量スチールシャフトの定番である950GHを現代のストロングロフト化したアイアンに合わせて最適化したモデルで、高弾道と適正なスピン量をもたらし、グリーン上でボールを止める性能に優れている。ウッドで飛距離を稼ぎ、信頼するアイアンで確実にグリーンを捉える。彼女のゴルフの根幹を支える、揺るぎないセットアップである。

ウェッジ:Titleist VOKEY SM10 / WedgeWorks (48°, 52°, 58°)

スコアメイクの鍵を握るアプローチとバンカーショット。ここで櫻井が手にしたのは、PGAツアーでも絶大な使用率を誇るタイトリストのボーケイウェッジだった。モデルは最新の『SM10』を2本(48度、52度)と、カスタムオーダーの『ウェッジワークス』(58度)という構成。アイアンからの流れを重視し、PW(ZXi7)とのロフト差を考慮して48度を投入。そして、アプローチの基本となる52度、バンカーショットやロブショットで多彩な技を繰り出すための58度という、現代プロの標準的なセッティングと言える。

ボーケイウェッジがプロから支持される最大の理由は、その圧倒的なスピン性能と、多彩なグラインド(ソールの削り)による抜けの良さにある。櫻井もまた、その性能を高く評価し、自らのショートゲームの武器として選択した。特に最終日の18番ホール、優勝を決めるバーディの直前、バンカーからピンそばに寄せるスーパーショットは記憶に新しい。あの極限の状況で、イメージ通りのスピンと距離感を生み出せたのは、このウェッジへの信頼があったからこそだろう。アイアンは「信頼」のスリクソン、ウェッジは「革新」のボーケイ。この使い分けに、彼女の緻密な計算が見て取れる。

パター、ボール、グリップ:勝利を決定づけた「こだわりの選択」

パター:PING ANSER 4 (2011年モデル)

今回の優勝セッティングにおいて、最大のサプライズであり、勝利の最大の功労者と言えるのが、このパターだろう。櫻井が今大会で手にしたのは、ピンの『ANSER 4』。しかも、2011年発売という、10年以上前のクラシックなモデルである。これは、彼女が長年エースとして使用してきたテーラーメイドの『トラス TB1』とは全く異なるタイプのパターだ。

「(このパターは)師事する目澤秀憲コーチのスタジオから掘り出してきた年代物。元々パッティングが得意なタイプだったが、勝利から離れていた時期にはグリーン上でも悩んでいた。今週はグリーンが速いし、繊細な方がタッチも出るかなと思って使ってみたら、めちゃ合いました」

この本人のコメントが全てを物語っている。ANSER 4は、ヒール側にシャフトが装着されたL字マレットに近い形状で、フェースの開閉を積極的に使ってストロークするプレーヤーに向いている。目澤コーチも「世間的には“難しいパター”とされるけど、選手にとっては感覚が出しやすい」と評する通り、操作性が高い反面、芯を外した際の寛容性は低い。しかし、高速グリーンに仕立てられた大箱根CCにおいて、その「繊細さ」が櫻井の感性と見事にシンクロした。これまで試してきた「重い時はキャメロン、速い時はエースのテーラーメイド」という使い分けに加え、「ヒール重視のパターも良い」という新たな発見が、2年間のスランプを打ち破る最後のピースとなったのだ。

ボール:Srixon Z-STAR DIAMOND

ボールもまた、アイアンと同様にスリクソンの『Z-STAR DIAMOND』を継続使用。契約フリーとなっても、長年培ってきたボールとの信頼関係を重視した。Z-STAR DIAMONDは、Z-STARシリーズ3モデルの中で、ドライバーでの飛距離性能、アイアンでのスピン性能、そしてアプローチでのフィーリングの全てにおいて、バランスの取れた性能を持つことが特徴だ。

ドライバーで飛距離を稼ぎたい櫻井にとって、コアの反発性能は譲れない。同時に、進化したスイングとボーケイウェッジでグリーンを狙う際には、アイアンショットで適正なスピンがかかり、グリーン上でしっかりとボールが止まることが不可欠である。この「飛んで、止まる」という相反する要求を高次元で満たすZ-STAR DIAMONDは、彼女のプレースタイルにまさに最適なボールと言えるだろう。ウッド系は他社製品にスイッチしながらも、ボールとアイアンでスリクソンを使い続ける。この点からも、彼女が各ギアの性能をいかに冷静に見極めているかがわかる。

グリップ:Iomic

最後に、クラブとプレーヤーを繋ぐ唯一の接点であるグリップにも、彼女のこだわりが光る。パターを除く13本全てに、イオミック社のグリップを装着しているのだ。その理由について、彼女は過去にこう語っている。。機能性とデザイン性、その両面から選ばれたのがイオミックだった。特に「雨でも滑らない」という機能性は、天候に左右されるゴルフにおいて、常に安定したショットを打つための重要な要素だ。どんな状況でもクラブを信頼し、自分のスイングに集中できる。その安心感が、大混戦となった最終日のプレッシャーの中でも、彼女のプレーを支え続けたに違いない。

優勝セッティングの核心

  • 契約フリーの決断: 2025年から契約フリーとなり、純粋な性能追求でウッド系を一新。タイトリストGT2シリーズを選択。
  • 信頼の継続: スコアメイクの要であるアイアンとボールは、慣れ親しんだスリクソンを継続使用。
  • 新旧の融合: 最新のウッドと、10年以上前のクラシックなピン型パターを組み合わせる大胆なセッティング。
  • 勝利の立役者: 目澤コーチのスタジオで見つけたピンANSER 4パターが、高速グリーンに完璧にマッチし、優勝を大きく引き寄せた。

勝利の女神は細部に宿る – 櫻井心那の戦略的ギア選択

櫻井心那のCAT Ladies 2025優勝セッティングは、単なる14本のクラブの集合体ではない。そこには、2年間の苦悩を乗り越えるための試行錯誤、勝利への渇望、そして彼女を支えるチームとの連携が密接に絡み合っている。ここでは、彼女のギア選択の背景にある戦略を3つのテーマから深く分析し、勝利の本質に迫る。

契約フリーという「攻め」の選択

2025年、櫻井心那が下した最大の決断は「クラブ契約フリー」への移行だった。これは、単に用具契約がなくなったという表面的な変化ではない。年間を通して安定したサポートが保証されるフルセット契約を手放し、全ての責任を自ら負う代わりに、純粋に「自分が勝てる」と信じるクラブをメーカーの垣根なく選択する自由を手に入れるという、極めて戦略的かつ「攻め」の選択である。

2024年の不振の最中、彼女は「迷路にはまった」と語った。スイング、パッティング、そしてそれを実行するクラブ。何が不調の原因なのか、その答えを見つけるためにあらゆる試行錯誤を繰り返した。その過程で、「アマチュア時代から使い続けてきたクラブが、本当に今の自分にとってベストなのか?」という根源的な問いに行き着いたのは自然な流れだろう。「好奇心」という言葉の裏には、現状を打破し、さらなる高みを目指すための貪欲な探求心が隠されている。結果として、ウッド系はタイトリスト、ユーティリティはテーラーメイド、アイアンとボールはスリクソン、ウェッジはボーケイ、そしてパターはピンという、5つの異なるメーカーの製品がバッグに収まることになった。これは、彼女が各カテゴリーにおいて、性能、フィーリング、そして信頼性の観点からシビアな評価を下した結果に他ならない。

この選択を後押しするように、近年の女子ツアーではクラブ契約フリーで活躍する選手が増加傾向にある。このトレンドは、クラブの性能がメーカー間で拮抗し、選手個々のスイングや感性に合わせた最適な組み合わせを追求することの重要性が増していることを示している。以下のグラフは、今大会終了時点での2025年JLPGAツアーにおけるパターとボールのブランド別勝利数を示したものだ。ここからも、特定のメーカーが市場を独占するのではなく、多くのブランドが熾烈な競争を繰り広げている様子がうかがえる。櫻井は、この競争の海に自ら飛び込み、自分だけの「勝利の方程式」を組み上げたのである。

データ出典: ALBA.Net の情報を基に作成。

「新旧融合」セッティングの妙

櫻井のセッティングを分析する上で、最も興味深いのが「新旧融合」というテーマである。一方では、2024年発売の最新テクノロジーが詰まったタイトリスト『GT2』ドライバーで飛距離と安定性を追求する。そしてもう一方では、2011年発売というクラシックなピン『ANSER 4』パターで、自らの感性を最大限に引き出そうとする。この一見アンバランスな組み合わせにこそ、彼女のクラブ哲学の神髄が隠されている。

現代のゴルフクラブ開発は、AI設計や新素材の活用により、特にウッド系において飛距離性能と寛容性が飛躍的に向上した。プロゴルファーがその恩恵を最大限に享受するのは当然の選択である。櫻井もまた、最新のテクノロジーを積極的に取り入れることで、自らの武器である飛距離をさらに磨き上げた。

しかし、ことパッティングに関しては、話が少し異なる。もちろん最新のパターにも、慣性モーメントを高めてミスヒットに強くしたり、フェースインサートで打感を調整したりと、様々なテクノロジーが投入されている。櫻井自身も、寛容性の高いテーラーメイドの『トラス』シリーズをエースとしてきた。だが、最終的に勝利を手繰り寄せたのは、テクノロジーによる「やさしさ」ではなく、自らの「感覚」をダイレクトに反映する、ある意味で「難しい」とされる古いパターだった。

「(ANSER 4は)フェースの開閉が自然とできる。今まで使ってきたのよりヒール重視(トウヒールバランス)だったんですけど、それも良いなと発見できたのも面白かった」

この発見は、彼女がスランプの中で自分自身の感覚と向き合い、研ぎ澄ませてきたからこそ得られたものだろう。最新技術で物理的なパフォーマンスを最大化しつつ、最も繊細な感覚が求められるグリーン上では、あえてシンプルな構造の旧モデルを選択する。これは、テクノロジーに依存するのではなく、テクノロジーを主体的に使いこなし、自らの感性と融合させるという、現代トッププロの成熟した姿勢を象徴している。この「新旧融合」セッティングは、櫻井心那が単なるパワーヒッターから、状況に応じて最適な武器を選び抜くことができるクレバーなプレーヤーへと進化したことを明確に示している。

勝利を呼び込んだ「チーム」の存在

クラブセッティングという「モノ」の分析だけでは、今回の優勝の全貌は見えてこない。その最適な「モノ」を選び出し、使いこなすための「ヒト」の存在、すなわち「チーム」の力が不可欠だった。

その中心にいるのが、2024年秋から指導を受ける目澤秀憲コーチである。彼は、スイング改造やアプローチ技術の向上といった技術面だけでなく、クラブ選びにおいても櫻井に大きな影響を与えた。今回のキーアイテムとなったピン『ANSER 4』パターは、まさに彼のスタジオから発見されたものだ。選手自身が気づいていない可能性を引き出し、新たな選択肢を提示する。そして最終的な判断は選手に委ねる。この絶妙な距離感が、櫻井の主体性を引き出し、最高のパフォーマンスに繋がった。

そして、今大会で特筆すべきは、キャディを務めた吉田弓美子プロの存在だ。国内ツアー7勝の実績を持つ38歳の大先輩が、櫻井のバッグを担いだ。初日から「ハイテンションキャディ」としてムードを盛り上げ、緊張感が高まる場面では的確なアドバイスと精神的な支えとなった。優勝の瞬間、泣きじゃくる21歳を抱きしめた吉田の姿は、単なるキャディとプレーヤーの関係を超えた、深い信頼関係を物語っていた。大混戦のプレッシャー、2年間勝てない焦り。そうした目に見えない重圧を、大先輩の明るさと経験が和らげたことは想像に難くない。とメディアが表現したその存在感は、櫻井に良い意味での緊張感と安心感を与え、最後の勝負どころで彼女の背中を力強く押したのである。

優れたコーチによる技術的・戦略的な導きと、経験豊富なキャディによる精神的なサポート。この強力な「チーム」の存在が、櫻井自身が選び抜いた14本のクラブの性能を120%引き出し、2年ぶりの涙の復活優勝という最高の結果を生み出したのだ。

進化し続ける櫻井心那 – クラブセッティングから読み解く未来への展望

櫻井心那の「CAT Ladies 2025」での優勝は、単なる1勝以上の大きな意味を持つ。それは、2年間の長く苦しいスランプを乗り越え、一人のアスリートとして、より強く、よりクレバーに成長したことの証明であった。そして、その進化の過程は、彼女のクラブセッティングに如実に表れている。

今回の勝利の方程式を再確認すると、それは以下の3つの要素が完璧に噛み合った結果であったと言える。

  1. 契約フリーという大胆な戦略: 安定を捨て、純粋な性能追求に舵を切ったことで、メーカーの垣根を越えた「自分だけの最適解」を構築した。
  2. 新旧の長所を融合させた緻密なクラブセッティング: 最新テクノロジーの恩恵を享受しつつ、自らの感性を信じてクラシックな道具も使いこなす、成熟したクラブ哲学を確立した。
  3. コーチやキャディとの信頼関係: 技術的な指導者と精神的な支柱という強力なチームのサポートが、彼女のポテンシャルを最大限に引き出した。

10代で4勝を挙げた類稀な才能は、2年間の苦悩と試行錯誤という名の「研磨剤」によって、その輝きを一層増した。「ダイヤモンド世代」の旗手は、今やただの原石ではない。自ら考え、決断し、周囲の力も借りながら道を切り拓く、洗練されたトッププレーヤーへと変貌を遂げたのだ。

この優勝は、ゴールではない。彼女が目標に掲げる「海外メジャー制覇」「世界一」への、新たなスタート地点である。今回、悩み抜いてたどり着いたクラブセッティングの最適化と、それを支えるチームとの連携は、今後さらに高いレベルで戦っていくための強固な土台となるだろう。苦しみの末に流した涙を力に変え、櫻井心那の次なる挑戦が、今、再び始まる。彼女の14本の武器が、世界の舞台でどのような輝きを放つのか、我々は期待を込めて見守りたい。

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