第1回:2025年9月半導体市場分析

気になる経済

半導体サイクル(シリコンサイクル)ってなに?

半導体産業において約3~4年の周期で好況と不況を繰り返す景気循環のことで、半導体指数のSOX指数がそれに連動しています。ですから、この半導体サイクルにのっとってSOX指数を売買することで利益を上げることができます。そこで、現状と過去の半導体サイクルの分析を今後の見通しを調査した結果を3回に分けて連載します。第1回は現状についての分析結果です。

1. 半導体市場の最新状況

全体的な成長見通し

2025年の世界半導体市場は強力な成長軌道にあります。世界半導体貿易統計機構(WSTS)によると、2025年の市場規模は7,280億ドル(前年比+15.4%)に上方修正され、2026年は8,000億ドル(同+9.9%)に達する見通しです。成長の主因はAI関連デバイスの需要拡大とデータセンターの投資増加です。長期的には2030年までに1兆ドルの市場規模に達すると予測されています(複合年間成長率7%)。

製品セグメント別動向

製品セグメント 2025年成長率 主な成長要因
ロジックチップ +29% AIアクセラレーター、データセンター向けCPU/GPU
メモリ +17% HBM(高帯域メモリ)、AIシステム用記憶装置
アナログ +8% 自動車エレクトロニクス、IoT機器

業界の特徴と課題

  • 循環性:過去34年間で9回の景気転換があり、近年は収縮頻度が増加(過去14年でより頻繁だが振幅は小さく)
  • 投資負荷:イノベーションコストが高まり、2024年のR&D支出はEBITの52%(2015年は45%)に達し、R&D成長率(12% CAGR)がEBIT成長率(10%)を上回る
  • 地政学的リスク:台湾(TSMC)依存度、米中輸出規制、供給チェーンの地域分散化圧力

2. 主要メーカーの現状と戦略

TSMC(台湾半導体)

  • 業績:2025年Q2売上高300.7億ドル(前年比+44.4%)、粗利益率58.6%、先端ノード(7nm以下)が売上の74%を占める
  • 技術戦略:2nm量産準備中、CoWoS(高度実装)能力拡大(2025年70kウエハ/月、2026年90kへ)
  • 成長原動力:AIアクセラレーター売上が年率2倍、NVIDIA/AMDの主力製造元
  • 市場地位:ファウンドリー市場シェア64%(2024年末)、収益力と技術リーダーシップで優位
  • リスク:台湾の地政学的リスク、米国立地の生産コスト上昇(アリゾナ工場の生産コストが台湾より50%高い可能性)

Intel(インテル)

  • 経営改革:最高経営陣刷新、ファウンドリー事業とデータセンターに資源集中
  • 技術ロードマップ:18Aノードを2026年初頭に量産予定、EMIB等の実装技術強化
  • 財務状況:株価は2025年8月に22%急落した後反発、しかし見通し不安(前方P/E比率227)
  • 政策支援:CHIPS法による米国政府の資金支援を受ける可能性、国内製造拡大を目指す
  • 課題:TSMCや三星に対する技術ギャップ、ファウンドリー市場シェア5%未満、人材不足とコスト管理

Samsung(サムスン電子)

  • 技術戦略:2025年に2nm量産開始を計画、GAA(全囲みゲート)技術を強調
  • 事業構造:メモリ(HBM3e供給)とロジックの統合を目指し、AI向けソリューション提供
  • 課題:歴史的な歩留まり問題、ファウンドリー市場シェア12%(TSMCに大幅劣後)
  • 経営動向:チップ事業再検討中、ピョンテク工場と米国Taylor投資の一時停止を検討

AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)

  • 業績:2025年Q2売上高77億ドル(前年比+32%)、純利益8.72億ドル、株価は過去四半期で+49%
  • 成長戦略:AI GPU市場進出、データセンター向けCPU強化、TSMCの先端プロセス活用
  • 見通し:2025年Q3売上予想87億ドル(±3億ドル、前年比+28%)、GPU売上が急速拡大(Q3予想13億ドル、Q4に22億ドル見込み)
  • 課題:NVIDIAとの直接競争、製造を完全にTSMCに依存、メモリコストの影響

3. サプライチェーンと需要動向

需要駆動要因

  • AI革命:生成AIや大規模言語モデル(LLM)による高性能チップ需要急増、AI関連売上が半導体全体の50%を占める可能性
  • データセンター投資:サーバー/データセンターが2025年の主要エンドマーケットとして位置づけられ、クラウド事業者のカスタムシリコン戦略強化(Meta、Amazon、Microsoftの第2世代AIチップ開発)
  • 自動車エレクトロニクス:電気自動車と自動運転の進展により、2029年には自動車半導体市場が1,273億ドルに達する見通し

サプライチェーンの課題と変革

  • 先端実装能力不足:TSMCのCoWoSなど高度実装技術がボトルネックとなり、供給増強が急務
  • 米国再編成:CHIPS法により米国での半導体投資が加速(民間投資4,500億ドル超)、2032年までに米国の世界製造シェアを10%から14%に引き上げる目標だが、労働力不足と建設遅延が課題
  • 材料供給リスク:米国の化学・材料サプライチェーンで2030年までに約60%の材料が輸入依存と予測、供給ギャップが懸念
  • 物流とインフラ:半導体輸送の特殊要件(温度管理、静電気対策)、港湾混雑と輸送コスト上昇

投資判断に有用な指標

指標 現状 投資への影響
TSMCのCoWoS利用率 2025年70kウエハ/月(目標達成率) AIチップ供給逼迫の�緩和度合いを示す
半導体設備投資額 2025年1,600億ドル(前年比+3%) 供給増強ペースと先行き需要予測の晴雨計
メモリ価格指数 DRAM価格反発(2025H2見込み) サイクルタイミングと在庫調整状況の指標
米中輸出規制強化度合い 新たなエンティティリスト追加(2025年140社) 在庫水準と代替供給路の確保必要性

4. 投資展望とリスク留意点

機会分野

  1. AIエコシステム:高性能ロジックチップ(TSMC、AMD)、HBMメモリ(三星、SKハイニックス)、高度実装技術
  2. 地域分散化:米国CHIPS法関連企業(Intel、Applied Materials)、欧州半導体イニシアチブ関連
  3. 次世代技術:2nm以下プロセス、3D実装、光通信半導体

主要リスク

  • 景気循環リスク:過去の9回の転換を踏まえ、急激な需要鈍化の可能性
  • 政策変動:米国の輸出規制強化、中国の自主技術開発促進、EUの環境規制
  • 技術開発遅延:3nm以下での物理的限界、量産歩留まり問題、代替材料開発滞り
  • 価格競争:メモリ市場の過剰供給、CPU/GPU分野での価格戦

結論

2025年の半導体市場はAI主導の成長が続くものの、循環性と地政学的リスクに注意が必要です。短期的にはTSMCやAMDなどのAIベンダーが牽引する一方、長期的には供給チェーンの地域分散化と次世代技術開発が投資の鍵となります。個別銘柄選択では、技術リーダーシップ、収益安定性、サプライチェーンの弾力性を重視することが重要です。

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