半導体サイクル(シリコンサイクル)ってなに?
半導体産業において約3~4年の周期で好況と不況を繰り返す景気循環のことで、半導体指数のSOX指数がそれに連動しています。ですから、この半導体サイクルにのっとってSOX指数を売買することで利益を上げることができます。そこで、現状と過去の半導体サイクルの分析を今後の見通しを調査した結果を3回に分けて連載します。第3回は今後の反動サイクルについてです。
1. 半導体産業の将来サイクル予測(2025-2030年)
半導体産業は技術革新、地政学的緊張、需要構造の変化によって特徴的なサイクルを形成しています。過去34年間に9回の拡大・収縮サイクルが確認されており(Deloitte, 2025)、近年は振幅が縮小する一方で収縮頻度が高まっています。この動向を踏まえ、今後のサイクルを3段階で予測します。
■ 短期(2025-2026年):AI主導の拡大期と潜在的な調整リスク
- 成長駆動力:生成AIによるデータセンター向けチップ需要が牽引します。2025年の世界半導体売上高は約7,000億米ドル(前年比11%増)に達する見通しであり(Deloitte, 2025;Microchipusa, 2025)、AIチップ市場は1,500億米ドルを超えると予測されています。特にHBM(High Bandwidth Memory)や先進パッケージング(CoWoS)の需要が急増しています。
- リスク要因:一部分野で供給過剰の兆候が見られます。例えばTSMCのCoWoS設備稼働率は2025年8月時点で60%程度と低調であり(Digitimes, 2025)、2026年にはAIチップの過剰供給が懸念されます。また、PC・スマホ市場の伸びが低単位桁にとどまることで(Deloitte, 2025)、全体の需要増加が不均衡になる可能性があります。
■ 中期(2027-2030年):1兆米ドル目指す中での地政学的波乱
- 目標達成経路:2030年の売上高1兆米ドル達成に向け、年平均7.5%の成長が必要です(Deloitte, 2025)。この期間には次世代ノード(2nm/1nm)の量産開始と、自動車・産業用半導体の回復(2025年後半から)が成長を支えます(A2GlobalElectronics, 2025)。
- リスク要因:米中の技術競争と供給網の地域化がコスト圧力を高めます。米国の新規ファブ建設コストは台湾より10%高く、運用コストは35%も上回ることが報告されており(McKinsey, 2025)、政府補助金の減退が収益性を圧迫する可能性があります。
■ 長期(2030年以降):新技術によるサイクルの質的転換
- 成長エンジン:量子コンピューティング(2035年市場規模720億米ドル予測、McKinsey, 2025)やIoT(2030年IoT半導体市場1.3兆米ドル、MordorIntelligence, 2025)が新たな需要を創出します。特にIoTは消費電子以外の需要基盤を拡大し、サイクルの振幅を縮小させる可能性があります。
- 不確実性:半導体設計・製造技術の物理的限界(Mooreの法則の終焉)が到来する場合、投資リターンの低下や技術転換期の混乱が発生することが懸念されます。
2. 新技術が半導体サイクルに与える影響分析
■ AI:サイクルの「質的転換」を引き起こす
AIは半導体サイクルの構造的変化をもたらしています。従来のサイクルはPC・スマホ需要に依存していましたが、現在はデータセンター向け高価値チップ(GPU、HBMなど)が主導権を握っています。2024年のAIチップ市場は総半導体売上の20%超を占め(Deloitte, 2025)、その影響で「高単価・少量生産」の傾向が強まり、ウエハー出荷量と売上高の乖離が拡大しています(2024年ウエハー出荷量は前年比2.4%減少しながら、売上高は19%増加)。
投資への示唆:AI関連企業(NVIDIA、TSMC、HBMメーカー)の短期成長が期待できますが、需要予測の誤差による急落リスクも高いため、バランス型ポートフォリオが推奨されます。
■ IoT:サイクルの「安定化因子」として機能
IoT機器の普及(2024年末の接続台数188億台、IoT-Analytics, 2024)は、半導体需要の裾野を広げています。IoT向けチップは低価格だが大量生産されるため、消費電子市場の低迷期にも比較的安定した需要を提供します。例えばセンサーやMCU(Microcontroller Unit)の需要は、スマホ売上の伸びとは無関係に成長しています(Infosys, 2025)。
投資への示唆:IoTエコシステム企業(センサーメーカー、通信チップ企業)は、サイクルの谷間でのポートフォリオ安定化に役立ちます。
■ 量子コンピューティング:長期的な「破壊的要素」
量子コンピューティングの商業化は2030年代以降になると予想されていますが(IDTechEx, 2025)、その波及効果は甚大です。量子処理ユニット(QPU)の開発に伴い、従来のCMOSベース半導体の需要が減少する可能性があります。一方、量子コンピューターの開発に必要な特殊材料(超伝導体、光子素子)や制御ICの需要が新たに生まれます。
投資への示唆:短期的には投資対象ではありませんが、IBM、Googleなどの研究リーダー企業と、特殊材料メーカーの動向を監視する必要があります。
3. 投資判断に役立つ潜在的変動要因
変動要因 | 内容 | 投資への影響 |
---|---|---|
AI需要の急落 | AIチップの過剰供給(例:2026年CoWoS需要100万枚 vs 供給能力拡大) | 高値での利益確定が必要 |
地政学的緊張激化 | 台湾情勢、米中輸出規制強化による供給断絶リスク | 地域分散投資(米国・欧州・日本のローカル企業) |
コスト上昇圧力 | 米欧のファブ運用コスト高(労働・エネルギー)と補助金減少 | コスト竞争力の高いアジア企業(TSMC、三星)の優先 |
技術開発遅延 | 2nm以下の微細化や新素材(GAAFET)の商用化延期 | 既存ノード(5nm/3nm)投資の見直し |
自動車・産業用回復 | EV・ADAS普及率上昇による車載半導体需要回復(2025年後半) | 英飛凌、意法半導体などの自動車半導体企業への配置 |
結論:投資戦略のポイント
半導体産業は今後5年間、AI主導の成長期を迎えるものの、サイクルの短期的変動リスクが高まっています。一般投資家は以下の戦略を検討することが望ましいです。
- セクター分散:AI/データセンター(高成長・高リスク)、IoT(安定成長)、自動車(回復局面)に資産を分散させる。
- 地域分散:米国(CHIPS法受益企業)、台湾(最先端製造)、欧州(自動車半導体)のバランスを取る。
- 指標監視:HBM価格、CoWoS稼働率、米中関係の進捗を定期的に確認する。
半導体の長期的成長トレンドは確かですが、サイクルの波乱を乗り切るためには柔軟なポートフォリオ管理が不可欠です。
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