アニメ「ダンダダン」を最初に知ったのは、ほんの偶然でした。Amazonプライムで流れてきた作品のひとつにすぎなかったのに、気がつけば最後まで観てしまった。第1話の始まりは正直そこまで惹かれなかったのですが、いじめられっこのオカルンが読んでいた雑誌「ポー」を見た瞬間に心が動きました。あれは子どものころに夢中で読んでいたオカルト雑誌「ムー」とそっくりで、画面から漂ってくる昭和の匂いに妙な懐かしさを覚えたんです。
そして調べてみると、この「ダンダダン」はただのアニメではなく、ジャンプ+で連載中の人気漫画を原作にしていて、作者の龍幸伸さん自身が埼玉出身。作中の舞台には川越や飯能をモデルにした風景が多く登場し、心霊スポットや昭和の商店街がリアルに再現されているのだとか。つまり僕が感じた“懐かしさ”は、単なる偶然ではなく、作品に意識的に仕込まれた空気感だったのです。しかも、僕は埼玉出身で、最寄りの駅はダンダダン餃子の発祥の地「調布」。なんだか、見えない糸でつながっているかと勝手に思っています。また、セルポ星人が変身したときに「星人ダダが出たぁ」と声が出てしまったほど。
ダンダダンは幽霊と宇宙人をめぐる対立をベースに、ホラー、コメディ、青春、ラブコメ、そして社会風刺までをも飲み込んだ、いわば「クレイジーミックス」な物語。日常と非日常が切り替わるスピード感と、ふざけているのにどこか本気で胸を打つ描写に、多くの人が惹きつけられている理由もわかります。そこで、もっとダンダダンのことを知りたくて調査して4回に分けてレポートします。
作者・龍幸伸にインスパイアされた作品と人物
1. 映画『貞子vs伽椰子』の影響
龍幸伸はインタビューで、『ダンダダン』のアイデアの原点に映画『貞子vs伽椰子』があることを明かしている。同作の「良い意味で馬鹿っぽい」設定とホラーとコメディの融合が、作品の基盤を形成した。彼は「化け物同士の対決」というコンセプトをマンガに転用し、幽霊だけでなく宇宙人など複数のオカルト要素を取り入れることで、怖さを中和し「楽しいマンガ」を目指した。
2. 漫画家・伊藤潤二の影響
伊藤潤二の『富江』は、龍氏に「ホラーとギャグが隣り合わせ」の可能性を提示した。彼は「『富江』はすごく怖いんだけど、一歩間違えると笑っちゃう」と分析し、この感覚を『ダンダダン』に取り入れた。具体的には、恐怖シーンの直後にギャグを挟む演出や、怪異の姿を「不気味さ」と「滑稽さ」が共存する形で表現する手法が、伊藤作品の影響を反映している。
3. 特撮作品『ウルトラマン』の影響
公式情報や評論では、『ダンダダン』のキャラクターデザインとバトルシーンに『ウルトラマン』の影響が指摘されている。龍氏自身も特撮への強い関心を明かしており、特に「伝統的なヒーロー像」と「非現実的な能力表現」が作品に色濃く反映されている。
4. オカルトと特撮文化への関心
埼玉県出身の龍氏は、幼少期からオカルトと特撮に強い関心を抱いていた。これらの趣味が直接的に作品世界観に浸透しており、「ターボババア」の命名理由(「ターボ」と「ババア」の対比が面白い)や、宇宙人・幽霊・呪いなど多様なオカルト要素の融合に現れている。
『ダンダダン』の他作品への影響と関連性
1. ジャンルの境界突破による影響
『ダンダダン』は、オカルトホラー、SF、バトルアクション、ラブコメディを自由に融合することで、近年の少年漫画・アニメのジャンル固定化倾向に一石を投じた。従来「キャラクター中心の成長物語」か「世界征服型のバトル」のどちらかに偏っていた少年作品に対し、本作は「日常と非日常の共存」と「多様な感情のリズム」を提示し、後続作品のジャンル混合を促進した。
2. アニメ制作技術の革新
アニメ化を手掛けたサイエンスSARUは、3D技術と手描きアニメの融合により、『ダンダダン』独特の視覚表現を実現した。日常シーンでは手描きの温かみを活かし、アクションシーンでは3Dの動きの自由度を活用する「場面ごとの技術使い分け」が、業界に新たな制作指針を提案した。特に「セルルック技術」による3Dキャラクターの手描き風表現は、後続のアニメでも採用されるようになった。
3. ポストモダン的物語構造の提唱
作品は「クリーチャー・オブ・ザ・ウィーク」形式をベースに、各エピソードで異なるオカルト要素を導入しつつ、背後に大きな謎を埋め込む構造を採用。これは『幽☆遊☆白書』のダンジョン探索や『モブサイコ100』の日常と非日常の切り替えに影響を受けつつも、「恐怖→爆笑→感動」の急激な感情転換を可能にする独自のリズムを確立した。
4. 類似作品との関連性
『ダンダダン』は、以下の作品とジャンルや表現技法で接点を持つことが指摘されている:
作品 共通点 相違点
『チェンソーマン』 ゴアとギャグの融合、若者の無力感の描写 『ダンダダン』はオカルト要素をより多角的に取り入れる
『モブサイコ100』 超常能力者の日常描写、視覚表現の独創性 『ダンダダン』はバトルシーンの比重が高い
『ギャンツ』 オカルト的存在との死闘、リアルな暴力描写 『ダンダダン』はコメディ要素がより強い
『呪術廻戦』 伝統的呪術と現代都市の融合、チームバトル 『ダンダダン』はSF要素を加えた複合世界観
まとめ
『ダンダダン』は、龍幸伸の幅広い趣味(オカルト、特撮、ホラー映画)と先人たちの影響を基に、ジャンルの壁を超える独自の世界を構築した。その成功は、「変わり者の価値」を業界に再認識させるとともに、若手クリエイターに「自己表現の自由」を授けた。今後も、その革新的な表現手法と物語構造が、アニメ・マンガ文化に長期的な影響を与え続けることが予想される。
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