半導体サイクル(シリコンサイクル)ってなに?
半導体産業において約3~4年の周期で好況と不況を繰り返す景気循環のことで、半導体指数のSOX指数がそれに連動しています。ですから、この半導体サイクルにのっとってSOX指数を売買することで利益を上げることができます。そこで、現状と過去の半導体サイクルの分析を今後の見通しを調査した結果を3回に分けて連載します。第2回は過去の半導体サイクルについてです。
半導体産業は「バブルと崩落」を繰り返す特徴的なサイクル性があり、投資家にとってはそのパターンを理解することが重要です。以下では1980年代から現在までの主なサイクルを時系列で整理し、各期の特徴、引き金となった要因、投資への影響を解説します。
半導体産業の主要サイクル一覧(1980年代~2020年代)
期間 | サイクル区分 | 主要特徴 | 市場トリガー要因 | 投資への影響 |
---|---|---|---|---|
1980-1985年 | 日本DRAM台頭期 | 日本企業がDRAM市場シェアを80%まで拡大 | 日本の品質・価格競争力、米国の技術撤退 | 米国半導体株安、日本半導体関連企業(日立・NEC)の急成長 |
1985-1990年 | 米国復興期 | 米国企業がマイクロプロセッサへ戦略転換 | インテル386の成功、米日貿易協定 | PC向け半導体(インテル)の台頭、DRAM投資注意 |
1993-1996年 | インターネットブーム前半 | 年率30%超の成長、新工場投資ラッシュ | パソコン普及、ネットワーク機器需要 | 半導体装置メーカー(アプライドマテリアルズ)の高成長 |
1996-2001年 | ドットコムバブル期 | 急成長後の急落、32%の売上減少(2001年) | インターネット過熱投資、在庫過剰 | 全般的な株価暴落、特にメモリ系企業の赤字続出 |
2001-2008年 | モバイル準備期 | 回復後、2008年金融危機で2.8%減 | 携帯電話普及、グローバル景気後退 | ファブレス企業(クアルコム)の台頭、記憶素子価格下落 |
2009-2019年 | スマホ・クラウドブーム | スマホ需要で好況、2015-2016年調整 | iPhone普及、データセンター投資拡大 | TSMCを中心とした台湾半導体企業の成長、メモリ価格変動の影響大 |
2020-2023年 | COVIDブームと調整 | パンデミック需要急増後、2023年不況 | 在宅ワーク需要、その後の在庫調整 | コロナ初期はPC/サーバー関連強気、2023年はAI以外の部門弱含み |
2024年~現在 | AI駆動期 | 生成AI需要で高成長、特に高機能チップ | GPU/AIアクセラレータ需要急増 | NVIDIAを中心としたAI半導体関連企業の急伸、HBM(高帯域メモリ)関連銘柄の注目 |
各サイクルの詳細分析
■ 1980年代:日本VS米国のDRAM戦争(1980-1985年)
特徴
- 日本企業(日立・NEC・東芝)がDRAM(記憶素子)の品質と価格競争力で米国を圧倒
- 1981年に64K DRAMで米国のシェアを抜き、1987年には全体シェア80%に達する
- 米国半導体大手の多くがDRAM事業から撤退(インテルも1985年にDRAM撤退)
トリガー要因
- 日本政府の産業政策支援(VLSI技術研究組合など)
- 米国よりも高い生産効率と品質管理(不良率が1/10以下)
- 1985年:円安が継続し、日本企業の価格競争力が強化
投資への影響
- 勝者:日本の総合電機メーカー(NEC、東芝)、半導体装置メーカー(東京エレクトロン)
- 敗者:米国のDRAMメーカー(インテル、ナショナルセミコンダクター)
- 教訓:単一製品(DRAM)への依存はリスクが高い
■ 1990年代:インターネット革命とバブル崩壊(1993-2001年)
特徴
- 1993-1995年:年率31%、29%、40%と急成長(インターネット普及に伴う通信機器需要)
- 1995年:世界的な設備投資ラッシュ(50以上の新工場建設)
- 2000年:ドットコムバブル崩壊後、2001年の売上高が前年比32%減少(過去最大の下落)
トリガー要因
- 前半:パソコン普及とインターネットインフラ投資(ルーター・サーバー需要)
- 後半:過剰投資による在庫山積み、企業のIT予算削減
投資への影響
- 勝者:ネットワーク半導体企業(シスコ向けASIC)、インテル(サーバーCPU)
- 敗者:メモリメーカー(DRAM価格が1GBあたり100ドルから1ドル以下に急落)
- 教訓:設備投資のピーク(1996年)がサイクルの逆転点となる傾向がある
■ 2000年代:モバイル革命と金融危機(2001-2009年)
特徴
- 2003-2007年:携帯電話(特にスマートフォン)の普及で回復
- 2008年:世界金融危機の影響で売上が2.8%減少
- 台湾の台積電(TSMC)がファウンドリー事業で世界リーダーに浮上
トリガー要因
- 前半:携帯電話向けAP(アプリケーションプロセッサ)需要急増
- 後半:2008年リーマンショックによる消費者支出縮小
投資への影響
- 勝者:ファブレス企業(クアルコム、携帯端末向けチップ)、TSMC(製造請負)
- 敗者:PC向けCPUメーカー(AMD、価格競争で赤字)
- 教訓:「垂直統合型」から「設計(ファブレス)と製造(ファウンドリー)の分離」が主流に
■ 2010年代:スマホとクラウドの時代(2010-2019年)
特徴
- 2010-2018年:iPhone/iPad普及で半導体需要拡大(年平均成長率7%)
- 2015-2016年:中国の過剰生産によるDRAM価格暴落(一時、前年比60%安)
- 2018年:仮想通貨ブームでGPU需要急増、その後の急落
トリガー要因
- 前半:スマホの高性能化(アプリ使用量増加)
- 後半:クラウドコンピューティング投資の拡大と停滞
投資への影響
- 勝者:TSMC(最先端プロセスで独占的地位確立)、SKハイニックス(DRAM供給調整で価格回復)
- 敗者:中国のDRAM新規参入企業(長江存储科技など、巨額投資が回収困難)
- 教訓:需要予測が難しい分野(仮想通貨用GPU)への投資は慎重が必要
■ 2020年代:COVIDショックとAI革命(2020年~現在)
特徴
- 2020-2021年:COVID-19による在宅需要急増(PC・Web会議ツール用チップ不足)
- 2022-2023年:需要鈍化と在庫調整で一時的な不況(前年比売上マイナス)
- 2024年~:生成AI需要でGPUやHBM(高帯域メモリ)が急伸
トリガー要因
- 前半:在宅ワーク/学習によるPC・サーバー需要急増
- 後半:AIサービス(ChatGPTなど)の爆発的成長
投資への影響
- 勝者:NVIDIA(GPU市場独占)、HBMメーカー(SKハイニックス、三星)
- 敗者:スマホ向けミドルレンジチップメーカー(需要飽和)
- 教訓:AIや自動運転などの次世代テクノロジーへの先行投資が鍵
半導体サイクルの共通パターンと投資戦略
サイクルの共通点
- 周期:約3-4年で1回の盛衰(需要拡大→過剰投資→価格下落→設備投資抑制→需給逼迫→回復)
- 引き金:技術革新(例:AI)、マクロ経済(景気後退)、地政学的リスク(貿易摩擦)
- 長期トレンド:50年間で年平均成長率9%(情報化社会の基盤として不可欠)
投資家向け戦略
- サイクルフェーズの見極め
- 価格上昇期:メモリメーカー(DRAM/NAND)や装置メーカーに投資
- 価格下落期:安定収益のアナログICメーカー(テキサスインスツルメンツなど)へのシフト
- テクノロジートレンドとの連動
- 現在の重点分野:AI(GPU/HBM)、自動運転(センサー)、5G/6G(通信チップ)
- 地域分散
- 米国(設計・AI)、台湾(最先端製造)、韓国(メモリ)、日本(材料・装置)のバランス投資
まとめ:サイクルを超える半導体投資の本質
半導体産業は短期的には劇的な価格変動が起こりますが、長期的には情報化社会の根幹技術として成長を続けています。投資家は「サイクルの波に乗る」だけでなく、「次の技術革命を予見する」能力が求められます。近年のAIブームは新たな成長機会をもたらしていますが、過去の教訓から「過剰投資には警戒」することが大切です。
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