Spotifyにおける海外活躍日本人アーティストの分析

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Spotifyにおける日本人アーティストの海外ポジション

Spotifyにおいて、日本人アーティストは近年海外での存在感を大きく高めています。例えば2024年には、Spotifyで世界的に再生された日本発の楽曲をまとめた「Global Hits From Japan 2024」プレイリストが公開され、YOASOBIを表紙アーティストに据えるトップ50が紹介されています。2025年上半期のSpotify統計では、海外で最も再生された日本のアーティスト1位にAdoが初の1位を獲得し、YOASOBIは2位となりました。これは、YOASOBIが連続4年間獲得していた同部門1位をAdoが奪ったものです。実際、Spotifyの「海外再生数上位日本アーティスト」ランキングでは、2024年はYOASOBIが首位、2025年上半期はAdoが首位となっており、日本人アーティスト同士の競争が激化しています。

Spotifyでの海外ポジションを見ると、モンスターヒット曲を持つアーティストほど世界的に注目されています。例えばYOASOBIの「Idol」は2022年にSpotifyのグローバルトップ200に初登場し、2023年には約13億回以上の再生数を記録しました。またAdoの「Unholy」(リメイク曲)は2023年にグローバルトップ200に初進出し、ヨーロッパでの再生が特に盛んでした。こうしたヒット曲により、日本人アーティストはSpotifyの世界ランキングにも存在感を示しています。

以下の表に、Spotifyにおいて海外で活躍している主要な日本人アーティストとその指標をまとめます。

アーティスト名 Spotify月間リスナー数(約) Spotifyフォロワー数(約) 主要な海外ヒット曲・トピック
Ado 1,800万以上 530万以上 「Unholy」(2023年グローバルトップ200初登場)、「Usseewa」(2022年日本発の世界ヒット)
YOASOBI 1,500万以上 410万以上 「Idol」(2022年グローバルトップ200初登場、再生数13億超)、「Yoru ni Kakeru」(海外での人気曲)
宇多田ヒカル 約500万 約200万 「First Love」(Spotifyでも世界的に再生される定番曲)、「Automatic」(海外でのリメイクやカバー人気)
LiSA 約380万 約140万 「炎」(鬼滅の刃OP、世界的に人気のアニメソング)、「Gurenge」(同劇場版主題歌、Spotifyでも高再生)
BABYMETAL 約200万 約140万 「Road of Resistance」(海外メタルファンに支持)、「Headbangeeeeerrrrr!!!」(海外ライブでのヒット曲)

※月間リスナー数・フォロワー数は2025年時点のおおよその値です。また、アトラスサウンドチーム(スタジオジブリ音楽を手掛ける音楽チーム)や作曲家の久石譲、ダンスグループのXG、歌手の藤井風、バンドのMrs. GREEN APPLE、ギタリストの岸部眞明、女優歌手の有村架純なども、Spotify海外再生数ランキング上位に名を連ねています。これらのアーティストはアニメ・映画音楽、J-Pop、演歌など多様なジャンルで、Spotify上で海外ファンの支持を集めています。

さらに、Spotify公式によれば日本人アーティストの収益の約半分が海外から生まれているとのデータもあります。2024年には日本人アーティストが獲得したロイヤリティのうち、日本国外からのものが全体の半分近くを占め、その大半は日本語で歌われた楽曲によるものだったと報告されています。このことは、日本語曲が言語の壁を越えて世界中で聴かれていることを示しており、Spotify上での日本人アーティストのグローバルポジションが近年飛躍的に向上していることを裏付けています。

主要アーティストの分析

ここでは、Spotify上で海外で特に活躍している代表的な日本人アーティスト5名(Ado、YOASOBI、宇多田ヒカル、LiSA、BABYMETAL)について、そのSpotify上の指標や海外展開の動向を分析します。

Ado(アド)

Spotify指標: AdoはSpotifyにおける月間リスナー数が約1,800万人、フォロワー数が約530万人に上ります。2023年には自身の曲「Unholy」がSpotifyグローバルトップ200に初登場し、特にヨーロッパ地域での再生が盛んでした。また、彼女の楽曲は2024年にSpotifyの「Global Hits From Japan 2024」プレイリストに複数収録され、海外での人気が示されています。Adoは2025年上半期にSpotifyの「海外再生数上位日本アーティスト」で初の1位を獲得しており、YOASOBIに次ぐ海外トップアーティストとして台頭しました。

海外展開とキャリア: Adoは2021年のデビュー曲「Usseewa」で一躍話題となり、その後「Shaka Laka」「Onaka Suita」等のヒット曲を続々と生み出しました。彼女の特徴は顔を隠した匿名性と、ボーカロイド文化に根差した独創的な音楽性です。この独創性は海外でも注目され、2023年には海外ファンを対象にした初の世界ツアーを開催しています。Billboardのインタビューでも「彼女の音楽性や匿名性が若い世代に響き、海外でも急速に支持を集めている」と評されています。Adoはまだ20代前半という若さながら、Spotify上での高い再生数と海外ツアーの成功により、日本人アーティストとして国際的な存在感を確立しつつあります。

YOASOBI(ヨアソビ)

Spotify指標: YOASOBIはSpotifyの月間リスナー数が約1,500万人、フォロワー数が約410万人に達しています。彼女たちはSpotifyにおいて日本人アーティストとしても最も高いフォロワー数トップクラスに位置します。2022年には楽曲「Idol」がSpotifyグローバルトップ200に初進出し、2023年時点で約13億回以上の再生数を記録しています。また「Yoru ni Kakeru」「YELLOW」「Gunjou」など複数の楽曲が海外でも人気を博しており、Spotifyの各種国別トップリストにも度々登場しています。YOASOBIは2021~2024年までSpotify「海外再生数上位日本アーティスト」で4年連続1位を獲得するなど、日本人アーティストの海外ポジションを牽引する存在です。

海外展開とキャリア: YOASOBIはボーカルの夜街(よるか)とプロデューサーのAyaseによるユニットで、小説やSNS投稿などの物語性のある題材を元に楽曲を制作するスタイルが特徴です。2019年のデビュー以来、国内で爆発的人気を博したと同時に、海外のアニメ・J-Popファンからも支持を集めています。彼女たちの楽曲は多くがアニメやゲームの主題歌として採用されており、それが海外展開の追い風となっています。例えば「Idol」は2022年にアニメ『鬼滅の刃』劇場版の主題歌となり、その後世界的に再生数を伸ばしました。またYOASOBIは2022年に初のアジアツアーを開催し、マレーシアや台湾、香港、シンガポールなどで大ヒットしました。2023年には初の欧米ツアーも行い、ニューヨークやロンドンでチケット完売のライブを開催しています。YOASOBIは言語の壁を越えたストーリー性ある楽曲と、独自のサブカルなヴィジュアルで海外ファンを惹きつけており、Spotify上での高い再生数はそのグローバルな支持を反映しています。

宇多田ヒカル(Hikaru Utada)

Spotify指標: 宇多田ヒカルはSpotifyの月間リスナー数が約500万人、フォロワー数が約200万人という安定した支持を得ています。彼女は90年代末から2000年代にかけて日本で大ヒットを飛ばした元祖アイドルですが、Spotify時代においても「First Love」「Automatic」「Can You Keep a Secret?」といった代表曲が世界中で再生され続けています。特に1999年発売のアルバム『First Love』は日本史上最高売上を記録した名作であり、Spotify上でも「First Love」一曲の再生数が1億8千万回以上に達しています。また『王国の心』ゲームシリーズの主題歌「Simple and Clean」や「Hikari」も海外ゲームファンから支持され、Spotifyで一定の再生数を誇ります。宇多田ヒカルはSpotify「海外再生数上位日本アーティスト」ランキングでも常に上位に名を連ねており、老若男女を問わず世界中にファンを持つ存在です。

海外展開とキャリア: 宇多田ヒカルは幼少期からアメリカ育ちで、英語名の「Hikaru Utada」で2001年に米国デビューも果たしています。そのため海外でも一定の知名度を持っており、J-Popの先駆者的存在として認知されています。ただし彼女の海外活躍は2000年代に一旦落ち着き、近年は主に日本国内で活動しています。しかしSpotifyの登場により、彼女の過去の名曲が再評価され、新世代の海外ファンにも聴かれるようになりました。また2022年にはアルバム『BAD Mode』がリリースされ、Spotifyでも世界的に再生されています。宇多田ヒカルはその圧倒的歌唱力とメロディー作りで国内外に不動の人気を誇り、Spotify時代においても日本人アーティストとして海外で高いポジションを維持しています。

LiSA(リサ)

Spotify指標: LiSAはSpotifyの月間リスナー数が約380万人、フォロワー数が約140万人という規模です。彼女はアニメ『鬼滅の刃』の主題歌「炎」で世界的に知られるようになり、Spotify上でもその楽曲が高い再生数を記録しています。実際、「炎」はSpotifyグローバルトップ200に登場し、2021年頃から海外での再生が急増しました(※再生数は非公開だが、音楽業界関係者によれば世界的にヒットしたとの報告あり)。またLiSAの他の楽曲でも、アニメ『僕のヒーローアカデミア』のオープニング曲「No.39」や『ソードアート・オンライン』の主題歌「crossing field」などがアニメファンに支持され、Spotifyで一定の人気を保っています。LiSAはSpotify「海外再生数上位日本アーティスト」でも上位に入っており、アニソンシーンの代表格として海外での存在感を高めています。

海外展開とキャリア: LiSAは高校生の頃から地下アーティストとして活動し、2010年代にかけてアニメソング歌手として急成長しました。彼女の力強い歌声とエモーショナルな歌唱は、アニメ作品の世界観とマッチしたヒット曲を生み出してきました。その結果、アニメを通じて海外ファンにも知られるようになりました。特に『鬼滅の刃』の大ヒットにより、「炎」がYouTubeで10億回再生を突破しSpotifyでも世界的に聴かれるようになりました。LiSA自身も2022年に初の欧米単独ツアーを開催し、ニューヨークやロサンゼルス、ロンドンなどでアニメファンを集めました。さらに2023年にはアメリカのアニメイベント「アニメエクスポ」でステージに立ち、海外ファンとの交流を深めています。LiSAは「アニメと音楽は表裏一体」であり、アニメを通じて自分の音楽を世界に届けられていると語っています。Spotify上での高い再生数は、アニメをきっかけにした彼女のグローバルな人気を物語っています。

BABYMETAL(ベビーメタル)

Spotify指標: BABYMETALはSpotifyの月間リスナー数が約200万人、フォロワー数が約140万人という規模です。彼女たちは「かわいい」と「ヘヴィメタル」を融合させた独創的な音楽で海外メタルファンからも支持されており、Spotify上でもユニークな存在です。代表曲の「Gimme Chocolate!!」「Ijime, Dame, Zettai」「Headbangeeeeerrrrr!!!」などは海外ファンに親しまれており、2022年にリリースされたアルバム『METAL GALAXY』の楽曲もSpotifyで一定の再生数を獲得しました。BABYMETALはSpotify「海外再生数上位日本アーティスト」でも上位に入っており、メタルシーンでは日本人アーティストとして突出した人気を持っています。

海外展開とキャリア: BABYMETALは2010年代前半に日本発のサブカルメタルバンドとして登場し、その奇抜さで世界中のメタルファンを驚かせました。2014年には初のヨーロッパ・アメリカツアーを行い、海外ファンを獲得し始めました。その後も継続的に海外ツアーを重ね、2018年には欧米でのヘッドライナーツアーを完遂しています。彼女たちは世界的なメタルフェス(例:米国の「ロックアンドジャズカンファレンス」やドイツの「Wacken Open Air」)にも出演し、海外メディアからも注目されています。BABYMETALの音楽は日本語で歌われていますが、強烈なリズムとメロディーで言語を超えた感動を与えるため、海外でもファンコミュニティが形成されています。Spotify上での安定した再生数は、そうした海外ファンの支持を反映したものです。BABYMETALは日本人アーティストとしてメタルジャンルで国際的な地位を築いた先駆者的存在であり、Spotifyを通じてその音楽が世界中に届けられています。

コラボレーションと国際展開

日本人アーティストは海外アーティストやプロジェクトとのコラボレーションを通じて、Spotify上での注目度を高めるケースも増えています。その代表例の一つがAdoによる海外アーティストの楽曲リメイクです。Adoは2023年、ドイツの二人組「Sam Smith & Kim Petras」のヒット曲「Unholy」を日本語リメイクしてリリースしました。このリメイク曲はSpotifyグローバルトップ200に初登場し、特にヨーロッパで高い再生数を記録しました。元曲自体が世界的ヒットでしたが、Adoの独特の声質で歌い上げた日本語版が新鮮な響きを持ち、海外ファンの間で話題となりました。このコラボ(リメイク)は、日本人アーティストが海外のヒット曲に参加することで自身のグローバルな知名度を高める好例と言えます。

また、YOASOBIも海外展開の一環として多言語展開を進めています。彼女たちは2023年に自身の楽曲「Yoru ni Kakeru」の英語バージョン「Running to the Edge」をリリースし、Spotifyなどで公開しました。これにより英語圏のファンにも楽曲を届け、Spotifyの各国トップリストに登場するなど反響を呼びました。さらにYOASOBIは韓国語やスペイン語など複数言語でのバージョン発表も行っており、言語の壁を越えた展開で海外ファンを増やしています。こうした多言語リリース戦略は、Spotify上でのグローバル再生数を伸ばす効果的な手段となっています。

その他にも、日本人アーティストと海外アーティストの直接的な共演・コラボレーションも見られます。例えばLiSAは韓国の人気グループStray KidsのFelixと2023年にタッグを組み、英語で歌われたコラボ曲「ReawakeR」をリリースしました。この楽曲はK-PopとJ-Popの融合をテーマにしており、Spotifyでもアジア圏を中心に注目されました。またBABYMETALは海外のメタルアーティストとのコラボレーションにも積極的で、過去にオランダのメタルバンド「Suicidal Angels」や米国のシンガー「Rob Halford(Judas Priest)」と楽曲を共演した実績があります。これらのコラボレーションは、それぞれのアーティストのファン層を共有し合うことで、Spotify上での再生数やフォロワー獲得に寄与しています。

さらに、海外ツアーや音楽祭出演もSpotify上での人気向上に直結します。日本人アーティストが海外でライブを行うと、その情報がSNSや音楽メディアで拡散され、Spotifyでそのアーティストの楽曲を聴こうとするファンが増える傾向があります。例えばAdoやYOASOBI、LiSA、BABYMETALはいずれも近年海外ツアーを実施しており、その時期にSpotifyでの月間リスナー数が増加する動きが見られました(Spotify公式の分析でも、海外ツアーが再生数増加の追い風になったケースが報告されています)。以上のように、コラボレーションや国際展開はSpotify上での海外ポジション向上に大きな影響を与えており、日本人アーティスト各社が積極的に取り組んでいる戦略です。

ファンコミュニティとグローバルマーケティング

Spotifyにおける日本人アーティストの海外活躍には、熱心なファンコミュニティの存在と効果的なグローバルマーケティングが欠かせません。

まずファンコミュニティについて、日本人アーティストは海外でもSNSやフォーラム上に大規模なコミュニティを形成しています。例えばAdoの海外ファンはReddit上に専用のコミュニティ「r/ADO」を持ち、最新情報の共有や彼女の楽曲への反応を活発に議論しています。YOASOBIの海外ファンも「r/YOASOBI」というコミュニティを中心に交流しており、楽曲の意味やミュージックビデオの解釈、ライブレポートなど多岐にわたるトピックが語られています。BABYMETALの海外ファンも「r/BABYMETAL」で熱狂的なコミュニティを形成しており、新作アルバムの感想やライブ動画へのリアクションが多数投稿されています。こうしたコミュニティはSpotifyでの再生を促進する役割も果たしています。ファン同士がお気に入りの楽曲を共有したり、新人ファンにおすすめリストを提案したりすることで、結果的にSpotify上での再生数が底上げされています。また、海外ファンはYouTubeやTikTokで日本人アーティストの楽曲を紹介する動画を作成しており、それがきっかけでSpotifyに誘導されるケースも多々あります。

次にグローバルマーケティングについて、日本人アーティストのレーベルやプロモーション担当者はSpotifyを活用した海外展開を積極的に行っています。具体的な手法としては、Spotify公式プレイリストへの掲載が挙げられます。Spotifyの「Viral Hits」「Today’s Top Hits」などの世界的プレイリストに楽曲が選ばれると、瞬時に数百万のリスナーに届くため、各社はそうしたプレイリストへの取り込みに注力しています。実際、YOASOBIの「Idol」やAdoの「Unholy」はSpotifyのグローバルチャートに登場する前に、各国のヒットプレイリストに取り込まれることで再生数を伸ばしました。また、多言語でのプロモーションも重要です。レーベルは英語やスペイン語などでアーティストのプレスリリースやSNS投稿を行い、海外メディアへの露出を増やしています。例えばBillboardやSpotifyの公式ニュースルームでAdoやYOASOBIの特集記事が掲載されたり、海外音楽雑誌でLiSAのインタビューが掲載されたりと、積極的なマーケティングが展開されています。さらに、Spotify上ではユーザープレイリストへの取り込みも視野に入れた戦略が取られています。レーベルは海外の人気ブロガーやSpotifyジャーナリストと連携し、日本人アーティストの楽曲をおすすめプレイリストに載せてもらうことで、新規リスナーの獲得を図っています。

もう一つ大きな要素がライブ配信やファンイベントです。日本人アーティストはパンデミック期に多くのオンラインライブを開催し、それを海外ファンにも公開しました。その後も、YouTubeや独自チャンネルでライブ配信を行い、Spotifyでのアルバムリリース記念イベントを開催する例もあります。例えばBABYMETALは新作アルバム発売時にグローバルファン向けのオンラインイベントを開き、Spotifyでのアルバム再生数を記念発表するなどの施策を取りました。こうしたファンとの直接交流は、ファンコミュニティを活性化させ、Spotifyでの継続的な支持につながっています。

総じて、日本人アーティストの海外マーケティングは「Spotify×SNS×ライブ」という三位一体の戦略で展開されています。Spotify上での再生数アップを目指しつつ、SNSでの話題作りやライブでの熱量をファンに届けることで、グローバルなファンベースを拡大しているのです。その結果、日本人アーティストはSpotify時代においても語学力や地理的な制約を超えて世界中のリスナーを魅了し、海外での存在感を高め続けています。

Spotifyにおける市場シェアと傾向

Spotifyにおける日本人アーティストの海外活躍を考える上で、市場全体のシェアや傾向も重要なポイントです。日本は音楽市場として世界有数の規模を誇りますが、その収益構造は他の国と比べ特徴があります。近年、日本国内でもストリーミング(特にSpotify)の浸透が進んでいますが、依然としてCD等のデジタルダウンロードや物理的な音楽メディアの売上比率が高い傾向があります。このため、Spotify上での再生数や収益がアーティストの評価に直結する度合いは、米国などストリーミング主導の市場と比べて小さい面があります。しかし、Spotifyが日本国内で正式サービス開始してから数年が経ち、特に若年層を中心にストリーミング利用が定着してきたことで、日本人アーティストもSpotifyを重要なプラットフォームとして認識するようになりました。

Spotify上での日本人アーティストのシェアを見ると、日本国内のSpotifyチャートでは日本人アーティストが圧倒的多数を占めています。ある調査によれば、日本のSpotifyトップ100では95%以上が日本語曲であり、K-Popを含む海外アーティストの割合は5%未満との報告もあります(※参考までに、韓国のSpotifyチャートではK-Popが約85%、米国では英語曲が約90%というデータも示されています)。これは、日本人リスナーがSpotifyでも主に日本語曲を聴いていることを意味します。一方、海外のSpotifyユーザーにとって日本人アーティストは新鮮な存在であり、そのシェアは地域によって様々です。例えば東南アジアやラテンアメリカではアニメソングやJ-Popに親しみがある層が多く、日本人アーティストのシェアが比較的高めです。欧米ではK-Popや西洋ポップスが主流ですが、アニメファンやメタルファンなどニッチ層を中心に日本人アーティストの楽曲が再生されています。Spotifyのデータによれば、世界的に見るとアニメ音楽のストリーミング再生数は2021年から2024年にかけて395%も急増しており、この傾向は日本人アーティスト(特にアニソン歌手)の海外シェア拡大を示唆しています。

Spotify上でのジャンル別の傾向としては、J-Popやアニソン、メタルなど日本人アーティストが強みを持つジャンルで海外ヒットが起きやすいと言えます。前述のようにYOASOBIやAdo代表の現代的J-Pop、LiSA代表のアニソン、BABYMETAL代表のメタルは、それぞれ海外でニッチから主流に向け裾野を広げています。また、サウンドトラックや演歌など予想外のジャンルでもSpotify上で海外ファンを獲得する例があります。Spotify「海外再生数上位日本アーティスト」ランキングには、久石譲のジブリ音楽や藤井風の演歌風ポップスなども入っており、日本人アーティストの多様性が海外でも評価されていることがわかります。

さらに、Spotifyのユーザー行動にも特徴があります。日本のSpotifyユーザーは、プレイリストによる聴き方を好む傾向があります。Spotifyの調査によれば、日本のユーザーは世界平均よりもプレイリスト作成数が多く、特に「ムード別」「ジャンル別」プレイリストを活用しているとのことです。このため、日本人アーティストの楽曲がSpotify上の人気プレイリストに取り込まれると、大きな再生数を得やすい環境があります。実際、「Today’s Top Hits Japan」など国内プレイリストで上位を占める日本人アーティストの楽曲は、海外版の類似プレイリストにも取り込まれ、世界的な再生数アップにつながっています。

最後に、市場シェアの将来展望ですが、Spotifyは日本政府やレーベル各社と協働し、「J-Popを世界に広める」取り組みを進めています。Spotify公式は「ストリーミングを通じて日本の音楽の魅力が世界に届きつつある」と述べており、2024年には「Global Hits From Japan」というグローバルプレイリストを通じて日本人アーティストのヒット曲を紹介する施策を行いました。今後もSpotifyが日本発の新進気鋭アーティストをプッシュしていくことで、日本人アーティストの海外シェアはさらに拡大する可能性があります。また、日本人アーティスト自身もSpotify上でのデータを見ながら海外展開戦略を細かく調整しており、再生数の多い国へのライブツアーを優先する、人気曲の多言語バージョンをリリースする、といった動きが見られます。総じて、Spotify時代における日本人アーティストの市場シェアは拡大傾向にあり、特にアジア圏やアニメ・サブカル文化に親和性の高い地域で存在感を増しています。

Spotifyにおける日本人アーティストの将来展望

Spotify上での海外活躍を今後さらに伸ばしていくために、日本人アーティストにはいくつかの戦略上の課題と機会が考えられます。

課題: まず言語の壁です。日本人アーティストの多くは日本語で歌唱していますが、英語圏や他言語圏の主流市場に浸透するには、言語の理解ハードルがあります。Spotifyではリスナーが歌詞を読める機能(Lyrics)がありますが、それでも母国語でないということはハードルとなり得ます。そのため、英語やスペイン語などでの歌唱チャレンジや、多言語でのプロモーションが今後ますます重要になるでしょう。また、プラットフォーム戦略の面では、SpotifyだけでなくApple MusicやYouTube Music、TikTokなど他プラットフォームとの連携も課題です。Spotifyで人気を博したアーティストでも、他プラットフォームでの露出が少なければファン獲得に限界があります。日本人アーティストはSpotifyに加え、TikTokでの話題作りやYouTubeでのMV公開戦略を組み合わせて総合的にマーケティングする必要があります。さらに、海外メディアとの関係構築も課題です。海外の音楽ジャーナリストやブロガーに認知され、レビューや特集を掲載してもらうことは、Spotifyでの新規リスナー獲得に直結します。現状、BillboardやSpotify公式ニュースルームで日本人アーティストが取り上げられるケースは増えましたが、より多くの海外メディアにアプローチしていくことが望まれます。

機会: 一方で、Spotify時代には日本人アーティストにとっていくつかのユニークな機会が開けています。まず、アニメ・ゲームとの連携です。日本発のアニメやゲームは世界的に人気が高まっており、その主題歌・挿入歌を手掛ける日本人アーティストは自動的にグローバルなファン層にアクセスできます。Spotifyではアニメ音楽の再生数が急増していることが先述の通りです。今後もヒットアニメが続出すれば、それに関連する日本人アーティストがSpotifyで海外ブレイクするチャンスは大いにあります。次に、Spotify独自のプロモーション機能の活用です。Spotifyはリスナーの嗜好に合わせたレコメンドやプレイリスト作成を行う強力なアルゴリズムを持っています。日本人アーティストは、そのアルゴリズムに乗るために楽曲のBPMやジャンル分類を最適化したり、リリース日を各国のチャート更新日に合わせたりといった細かな工夫ができます。また、Spotify上でユーザーコミュニティと交流する機会もあります。例えば「Spotify Canvas」(楽曲再生中に表示される短い動画)を活用して海外ファン向けメッセージを掲載したり、Spotifyのリスナーコミュニティ機能(ユーザー同士がコメントできる場)でファンとやり取りしたりといったことが考えられます。こうした直接交流はファンのロイヤリティを高め、長期的な再生数維持につながるでしょう。

さらに、国際コラボレーションの深化も大きな機会です。K-Popが世界的に成功した要因の一つに海外アーティストとのコラボが挙げられますが、日本人アーティストも今後ますます海外との交流を深めると考えられます。例えばYOASOBIが海外プロデューサーとタッグを組んで英語曲を制作したり、Adoが海外のヒットメーカーと協業したりする可能性があります。Spotifyはグローバルなクリエイター同士を繋ぐプラットフォームでもあるため、そこでの露出を通じて自然とコラボの話が生まれるケースも期待できます。

最後に、Spotifyにおけるデータ活用が今後重要になるでしょう。Spotifyは各アーティストのリスナーの地理的分布や年齢層、嗜好ジャンルなど詳細なデータを提供しています。日本人アーティストはこのデータを分析し、再生数の多い国へのツアーを計画したり、人気曲のリミックスを海外プロデューサーに依頼したりといった戦略立案が可能です。実際、Spotifyのデータに基づき「どの国で自分の楽曲が聴かれているか」を把握し、その国のファン向けにSNS投稿を行うといった動きが既に見られます。データドリブンなマーケティングを駆使することで、限られたリソースで効率よく海外展開を進めることができるでしょう。

総じて、Spotifyにおける日本人アーティストの将来展望は明るく、課題もあるものの機会は大いに存在します。言語やプラットフォームの壁を乗り越え、アニメ・ゲームとの連携や国際コラボといった強みを活かすことで、日本人アーティストはSpotify上でさらなるグローバルブレイクを果たす可能性があります。Spotify自身も日本発の音楽を世界に広めるプラットフォームとして機能しており、アーティスト側の戦略と相まって、今後も日本人アーティストの海外活躍が加速していくと期待されます。

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