なぜ円安は止まらない?金利差だけでは見えない、日本の「新しい現実」4つのポイント

気になる経済

「日米の金利差が縮小すれば、円高になるはずだ」市場では長らく、これが常識とされてきました。事実、日米の名目金利差は縮小傾向にあり、物価を考慮した実質金利差はほぼ同じ水準にまで近づいています。しかし、現実はどうでしょうか。円安のトレンドは依然として根強く、多くの人々にとって大きな謎となっています。

この状況は、表面的な金利の動きだけを追っていては理解できません。実は、私たちが気づかないうちに、日本経済の『血液』とも言えるお金の流れが、根本から変わってしまったのです。それは、もはや金利差という対症療法では治せない、構造的な地殻変動です。

この記事では、円安が止まらない本当の理由を解き明かします。日本の経済データに隠された、多くの人が見過ごしている4つの構造的な「新しい現実」を、わかりやすく解説していきます。

1. 日本の「見せかけの黒字」:利益はあっても円は買われない

日本が海外との取引でどれだけ儲けているかを示す「経常収支」は、依然として大きな黒字を維持しています。これだけを見れば、「日本は海外から稼いでいるのだから、円が買われて円高になるはずだ」と考えるのが自然です。しかし、その黒字の中身が劇的に変わりました。

かつての黒字は、自動車や電化製品の輸出による「貿易黒字」が中心でした。しかし現在の主役は、日本企業が海外に持つ資産から得られる利子や配当などの「第一次所得収支」です。ここに巨額の黒字があるにもかかわらず、なぜか円は買われません。

その理由は、海外で稼いだ利益が日本に送金され、円に換えられていない(円転されていない)からです。帳簿上は日本の「儲け」として記録されても、実際にはそのお金が日本国内に還流していないのです。これは、「国の黒字は通貨高につながる」という古い常識が、もはや通用しなくなったことを示す、極めて重要なポイントです。では、帳簿上は日本の「儲け」であるはずのこの莫大な資金は、一体どこへ消えているのでしょうか?その答えが、次の構造変化に隠されています。

2. 企業も個人も「円を売る」のが合理的という構造

なぜ海外で得た利益は日本に戻ってこないのでしょうか。その答えはシンプルで、「日本国内よりも海外の方が収益率が高いから」です。日本企業は海外で稼いだ利益(年間30兆円超)を、日本へ送金するのではなく、そのまま収益性の高い海外での再投資やM&Aに回しています。これは企業にとって合理的な経営判断です。

この構造は企業に限りません。個人レベルでも、絶え間ない「円売り」圧力が存在します。

  • デジタル赤字: 私たちが日常的に利用する海外のクラウドサービスやアプリへの支払いは、年間約6.7兆円もの資金流出(円売り・外貨買い)につながっています。
  • 個人の海外投資: 新NISA制度の普及などを背景に、より良いリターンを求める個人投資家が海外の株式や債券に投資する動きが加速しており、その額は年間で最大10兆円規模に達します。

企業も個人も、それぞれがより良い収益を求めて合理的に行動すればするほど、結果として巨大な「円売り」圧力が生まれ、円安を定着させる構造が出来上がっているのです。

3. 政府の財政が与える静かな影響

日本の財政状況もまた、円安を後押しする静かな要因となっています。国の予算は120兆円を超え、そのうち国債の利払いや償還に充てられる「国債費」が約4分の1(約26%・31.3兆円)を占めるという現実があります。この財政状況は、将来の増税や社会保障負担増への懸念を生み、企業や個人が国内での長期投資を躊躇する一因となります。結果として、より成長が見込める海外へ資金を向かわせるインセンティブを強めているのです。

さらに、現在の政府が進める積極的な財政出動と金融緩和政策は、痛みを伴う構造改革よりも短期的な景気浮揚を優先するものです。この政策は、結果として円安、インフレ、そして株高が進みやすい環境を作り出しており、構造的な円安トレンドを支える土壌となっています。

4. 最も現実的な未来:「安い円」の常態化

ここまで見てきた構造的な変化を総合すると、現在の「安い円」は一時的な危機ではなく、日本経済の新しい常態であるという結論に至ります。これは誰か特定の犯人がいるわけではなく、企業、個人、そして政府が、それぞれの立場で合理的に行動した結果なのです。

日本国内に、海外で稼いだ資金を「戻したい」「投資したい」と思わせるような魅力的な投資先(高付加価値な工場やデータセンターなど)が生まれない限り、この大きな流れを変えることは困難です。

「割安な円」が常態化する未来が最も現実的なシナリオです。1ドル=170円、180円という水準も、一過性のパニックではなく、じわりとした構造的な変化として視野に入れる必要があります。

重要なのは「じわりとした」という点です。これはある日突然起きる危機ではなく、静かに、しかし確実に進行してきた経済構造の変質だということです。

Conclusion

円安が止まらない理由は、もはや日米の金利差という単一の要因では説明できません。これは、日本の「稼ぐ力」の源泉が変化し、その利益が国内に還流しないという、後戻りの難しい構造転換が定着したことの証左なのです。

この構造的な現実を理解した上で、私たちは自らの資産、ビジネス、そして日本の未来とどう向き合っていくべきでしょうか?

【図解】円安の「真犯人」を追う

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